所在地:埼玉県越谷市越ヶ谷
主要用途:施設(神社手水舎)
工事内容:修繕
建築面積:4.35㎡
竣工:2016年4月


久伊豆神社の中で最古の建物とされているのがこの手水舎です。記録によると永宝3年、1675年の建立と伝えられています。天井に描かれた龍の水墨画や随所に見られる登竜門の彫刻は見れば見るほど迫力があり、素晴らしい作品です。使用材料もほぼ100%欅(けやき)が使われており、総欅造りの手水舎であります。今回ご依頼いただいた内容は、この手水舎が南側に傾いてしまい、倒れてしまう前に元に戻して欲しいという事でした。
頭が重く、壁もなく、内側にわずかに倒れた四本の柱だけで絶妙なバランスを保ちながら建っている建物を専門的には「四方転び」(しほうころび)と呼びますが、このバランスが何かの(風、地震等)要因で動いた時には一気に倒れてしまいます。今回の修繕ではやや傾いてしまった癖を直す事を主としながら、傷んだ部品を取り替え、元の健全な形に直す事が求められました。一見、文字で書くと簡単な事のように思いますが、実際は非常に難しく、神経を使う仕事となりました。新しい部品を極力使わず、意匠を変えず、金物などの補強材も使わずに元の形に戻す為には、四本の柱を工場に持ち帰り、補修する必要がありました。当然柱を壊さずに取り外す為には、屋根や小屋組や斗栱を壊さずに外し、解体しなければなりません。
今回は、建物の上屋(あげや)の技術を応用しました。通常の上屋は建物を土台や足元から空中に上げて、その間に基礎を作ったり、建物を引く準備をします。今回は柱だけを残す為に柱の上部の枡組から上だけをそっと持ち上げ、柱を抜くことにしました。一歩間違えると枡(小屋を支えている部品)がバラバラになってしまい、屋根を上げることができなくなってしまいます。ここは職人さんの技術の賜物でした。
持ち帰った柱の見えなかった部分を確認し、傷んでいる部分を思い切って切除し、新しい欅の材料を上手く付け足す大手術を行いました。
柱を持ち帰っている間に、現場では、段差のあった基壇を下げ、バリアフリーにする工事や、手水の排水管の修理などを行い、礎石までを据えつけました。実は参道を広げる為に数十センチ南東にも移動しています。
その後柱を据え付け、屋根を戻し無事に元どおりに復元することが出来ましたが、手水舎を修理していた事や、手水舎の位置が変わった事に気が付いている人はほとんどいないかもしれません。それは施工者にとっては嬉しい事で、それほど違和感なく以前の形に戻せたという証です。未来永劫市民に愛される手水舎であり続けて欲しいものです。